相続放棄をする際の注意点

相続放棄に関する注意点

はじめに

相続に関する法律相談の際、相続が発生し、「相続放棄を検討しているが、どうすればよいか」といったご相談をよく受けます。
相続放棄自体は「裁判所に戸籍を提出し、自分が相続人であることを証明して相続放棄の申述をする」という点では、ご自身で行うことも可能な手続きになります。

しかしながら、相続放棄は「本来受け取ることができる遺産を放棄する」という性質から、遺産の関係者(次の相続人・債権者など)に影響を及ぼすため、相続放棄に関する様々な規定が存在します。

そこで、本コラムでは、相続放棄の際の注意点をいくつかご紹介したいと思います。

  1. 相続放棄をした場合の法的効果とは?
  2. 相続人の順位の変更
  3. 相続財産の管理義務

1 相続放棄をした場合の法的効果とは?

相続放棄をすると、最初から相続人とならなかったことになります

一般に、相続放棄といわれると「遺産についてはいらない」という意味で、相続人ではあるけれども、遺産については関与しない事だと考える方も多いかと思います。
しかしながら、民法939条には「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす」との規定があります。
そのため、相続放棄をすると、そもそも相続人としてカウントされないというのが民法上の法的効果になります。
例としては、父親が亡くなった場合、配偶者と子がいれば配偶者と子が相続人となりますが、子が相続放棄をした場合、「子はそもそも相続人とはならず、配偶者のみが相続人」ということになります。

2 相続放棄による相続人の順位の変更

(1)相続放棄をすると、次の順位の人が相続人となる場合があります

先ほど述べた通り、相続放棄をした方がいた場合、その方は初めから相続人とならなかったものとみなされます。
この規定により、次の順位の方が相続人となる場合があります。
なお、相続人の順位は、①配偶者・子②直系尊属(父・母)③兄弟姉妹の順番です(民法900条)。
このような順番が民法によって定められているため、場合によっては相続放棄がなされなければ相続人とならなかった方が相続人になる場合があります。

(一例)父親が死亡し、相続人が母親と子2人の場合

父親が死亡し、相続人が母親と子2人の場合

誰も相続放棄しなかった場合法定相続分は、母親2分の1、子2分の1となります(子供が2人のため、子1人つき4分の1)
子2人が相続放棄をした場合この場合、相続人は母親と直系尊属である父親の両親が相続人となります。
そうすると、父親の両親としては、本来相続人としての立場になかったのにも関わらず、自分の知らないところで自身が相続人となっていたということになります。

(2)知らない間に相続人となっていた場合にも相続放棄は認められる?

上記の例のような場合、自分が知らない間に相続人になっており、気付いたときには前の順位の相続人が相続放棄をして、自身が相続人になってからかなりの時間が過ぎていたという場合があります。
もっとも、相続放棄は、自身が相続人であることを知ってから3カ月以内(詳しくは相続放棄のページ参照)が相続放棄を行える期間となるため、自身が相続人となったことを知らなかったといえる場合には、相続放棄が認められる可能性があります。

(3)相続放棄が認められないケース

相続放棄については、「自己のために相続があったことを知った時から3カ月以内」という規定があるため(民法915条1項)、自分が相続放棄をするかどうか検討しなければならないときから3カ月以内に相続放棄をすればよいと考えるかもしれません。
しかしながら、

  • 被相続人(亡くなった方)の遺産に手を付けてしまった
  • 被相続人の遺品整理・葬儀などの手続きに関与し、支払いは被相続人の預金を使った
  • 被相続人の債権者から借金の請求が来ていたが、自分には関係ないと放置していた

など、本人の遺産に手を付けてしまったり、自分が相続人であるということを認識し得たのに、相続放棄をしなかったりしたという事情があると、相続放棄が認められない可能性もあります。

また、誰が被相続人かによっても、関係性などから期間経過後の相続放棄が認められる場合に違いが生じることもあります。
例えば、祖父母や、兄弟姉妹が被相続人であったという場合には、親族間の距離が近く、死亡の事実を認識しやすい状況にあるともいえ、自身が相続人になるかもしれないということもある程度予想できる場合もあります。

一方で、遠方に住んでいる・関係性が希薄となった親族や、叔父・叔母の相続などであれば、自分が相続人になっていたということに気づくのに時間がかかる場合も考えられます。
そのため、誰が亡くなり、自分がどのような経緯で相続人となったということを認識したかによって、3カ月を経過しても相続放棄が認められるかどうかが変わってくることにもなります。

(4)トラブルに発展しないよう、可能であれば次の相続人に連絡を

ただ、いずれにしても3カ月以内に相続放棄ができるのであればした方が良いに越したことはありません。
ですので、相続放棄をする場合、親族間で連絡を取れるような関係であれば、親族間で連絡を取っておいたほうが、禍根を残さなくて済む場合があります。

3 相続財産の管理義務

相続放棄をしても、被相続人の遺産を管理しなければならない場合があります

(1)被相続人の遺産の管理義務とは?

【民法940条】※令和5年4月1日改正
「相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。」

被相続人が亡くなった場合、施設(賃貸物件・社宅・病院・介護施設等)の管理者や、市役所などからの連絡により、葬儀、遺品整理や身辺整理のため、被相続人が生活していた部屋、所有物などの状況を確認する場合があります。

その際、被相続人に多額の借金があるなどの理由から、相続放棄を検討する場合、注意しなければならないのは、親族の遺品整理や身辺整理行為が、上記の「相続財産に属する財産を現に占有しているとき」にあたり、相続放棄をした場合であっても、相続人の財産を管理しなければならない義務を負う可能性があることです。

つまり、相続する・しないに関わらず、その人の遺産に関与できるのは基本的に相続人だけなのだから、遺産に関与したのであれば、相続財産清算人が出てくるまで財産を保管しておいて下さいというのが民法940条の規定です。

(2)令和5年4月1日以前の管理義務

【民法940条】
「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」

これまでの民法では、相続放棄をした場合でも、自身が最後の相続人であるような場合、相続財産管理人(現在は相続財産清算人という名称に変更されました。)が裁判所により選任されるまでは、被相続人の遺産を管理する義務がある状況でした。

もっとも、そのような規定だと、相続放棄をしたにも関わらず、相続財産管理人(相続財産清算人)が現れるまで遺産の管理をしなければならないといった問題や、遠方の相続人のような場合、事実上相続財産の管理が困難であるにも関わらず、被相続人の遺産に何かあった場合は、責任を負うことになります。

そこで、今回の改正により、被相続人の遺産に関する物を現に占有していた場合に限り、管理義務が生じるようになりました。

(3)今後の課題

もっとも、「現に占有していた場合」というのが、実際にどういう場合のことを指すのかについては、法律が改正されて間もない現時点でははっきりしない部分もあります。

そのため、遺産を相続すると決めている場合は別として、相続放棄をするかどうか迷っている場合は、遺産の調査や身辺整理を行う場合は注意して行う必要があります。

最後に

本コラムでは相続放棄の際の注意点を解説いたしました。
相続放棄は、被相続人が亡くなったことを知ってから3カ月(延長すれば6カ月)の間であれば、プラスの財産もマイナスの財産も放棄できるという権利です。

相続放棄はこのような債権者・債務者・次の順位の相続人などに影響のある手続のため、相続放棄ができる期間に制限があり、遺産を処分した場合などは相続放棄が認められません。
そのため、被相続人の死亡後は、被相続人に関する行為については慎重に行う必要があります。

加えて、相続放棄をしても「相続財産に属する財産を現に占有している」と判断された場合には、相続財産清算人が選任されるまで、被相続人の遺産を管理しておかなければならなくなります。
したがって、相続放棄は手続きの過程において注意をしなければ、後々トラブルに発展する可能性を秘めている手続きでもあります。
相続放棄に際して,少しでもご不安がございましたらお気軽にご相談ください。

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